社内報制作会社が見る、ここ20年の社内報史
2022.06.05
20年前、社内報制作は極めておいしい市場だったのだが…
20年くらい前、社内報の制作会社というのは数社しかありませんでした。専門性をもっているとなると、実質3社ほど。それに対して顧客となりうる社内報を発行する会社はかなり多く、問い合わせはその3社に集中し、コンペとなっても同じ顔ばかり。つねに真剣勝負ではありましたが、需給バランスで言えば、かなりおいしい市場でした。筆者はこの3社のうちの一つに所属しておりました。
ところが紙ベースが軸となる出版業界の絶不調に加えて、さらなる不況(リーマンショックもこのあたり)が追い打ち。ここで、いわゆる出版社から依頼を受けて雑誌や書籍・ムックなどを作っていた商業誌専門でやっていた編集プロダクションが、こぞって社内報業界に乗り込んできました。編集プロダクションという看板を掲げた制作会社にとって、社内報づくりは極めて親和性の高い事業。ウェブサイトに社内報制作のページを加えるだけです。社内報的な企画提案での経験知はないものの、記事を書いてデザインを施すことはお手のもの。いわば参入障壁などはないに等しく、小さな社内報制作業界は、パイを取り合う競合ひしめく厳しい市場へとシフトしました。
紙=無駄というレッテルが紙社内報を追いやる
加えて、ウェブ化の波です。「PDFでいいじゃん♪」という雰囲気が創り出され、「紙」=無駄、というレッテルとも近いイメージが浸透。そんな中で、(あえていいいます)「安直に」ウェブ化、PDF化にシフトする企業も多く、紙の社内報制作業界はさむ~い風が吹いておりました。でもまあ、ウェブ社内報というのは、なかなか機能するものではありません。まずセキュリティ的に会社でしか見られないケースが多く、その会社で社内報を見ること=仕事とは解釈されないため、なかなか見られません。また、パソコンモニターというのは、反射光で読むことになり、性質的に注意深く読むことには適していません。ゆえに、社内報の発行目的の達成と照らし合わせると効果が得られないというのが、私たちの認識です。そして専任社員を複数置くほどに社内報を超重視するパナソニックが、再切替えで紙の社内報発行を開始したのをきっかけに、多くの企業も紙社内報を復活させました。
ウェブ社内報は限定的な環境があるときのみ効果を発揮する、基本はやはり紙社内報、というようなアバウトなトレンドが2015年くらいから漂ってきたあたりに、さらなる社内報のstandardが生まれました。
アプリをつかった社内報の台頭
アプリです。セキュリティがネックであるものの、アプリであれば、インストールしたもの以外から見れなくすることは造作もなく可能。端末に直接情報を送れるとなれば、印刷代、速報性などのメリットが十分に得られます。そもそも紙社内報のセキュリティなんて本来ザルです。刷れば情報は「秘密」にしえおけるわけがありません。
こうして、アプリは一定のニーズを満たし、社内報の提供方法の一翼を担うに至りました。とはいえ、アプリは端末から見るもの、つまりは透過光。紙は反射光。実は頭に入る内容、効率や中身がけっこう違うので、発行目的によって使い分けるのが正しい道。そんな特質を使い分けながら、各社内報事業者は営業の日々、制作の日々を送っておるわけです。
蛇足かもしれませんが、筆者の見解は
アプリ社内報
メリット:双方向ツールにもなり得て、速報性もあります。基本は作って入力すれば発信されるため、コストメリット大
デメリット:成功事例や理念浸透企画などの行間理解まで求めたい内容を伝えるのは不得手。集中して読まれない特性があるため、深い記事が作りにくい。
紙社内報
メリット:作りに凝れるため、「読ませる」「伝える」を実現化しやすい。特集記事が作りやすく、発行目的によっては、一択になりうる。
デメリット:コスト問題! 必然的にレイアウト費用が発生し、社内の人的リソースもアプリなどより負担がかかる。
社内報のニーズ・環境・技術の変化
また、見逃せないもう一つの社内報的ツールがあります。社内報の発行目的が、情報共有、情報発信であれば、サイボウズ等のイントラで、十分な機能が果たせてしまうのです。機能追加などもあり、環境整備すれば動画などの配信可能。目的が明確であれば、社内報=イントラでも全然okだったりします。
さらに、sns時代の到来で、社内的な発信が、外部も含めたsnsでまかり通るケースも生まれてきています。新卒社員などは、当然チェックもしており、ブランディングも含めた戦略的な展開もあったりします。
また動画社内報も地味に存在し続けています。特に今、スマホ一つで動画が撮れて、編集までもできてしまう時代です。youtubeの発展はそのまま動画社内報の進化までもたらしたわけです。
動画社内報
メリット:何と言っても情報量。社食の新メニューをいくら文字で伝えても、数秒の動画に絶対に勝てません。環境次第では高視聴率が狙えます。
デメリット:配信環境整備が必要。重大情報発表には向いておらず、インタビューなどもどうしても長くなる。人は5分の動画をなかなか見てくれない。
コロナ禍での社内報
新型コロナウイルス感染症の流行は、社会にとんでもない再構築を促しました。業態によっては営業そのものがしばらくできなくなり、一般的には出社がマストでなくなり、パソナみたいに、瀬戸内の島に本社を移す会社まで出てきました。その中で社内報の役割に求められる役割は重大でした。
伝えるべきメッセージ、コロナ禍での営業上の注意点、感染防止対策、感染防止事例、などなど、アプリでも紙でも、この時期ほど社内報の精読率が高かったことはないのでは?というほどに、社内報はフォーカスされました。
そもそも紙しかなかった社内報(最初の社内報は1902年に作られた日本生命の社報だということです)は、この20年で大きな変容をとげました。
紙にウェブにアプリに動画、イントラにsns。媒体も内容も多様性となり、一つの型などに収まるものではなくなりました。
社会の様相もかわり、終身雇用制が当たり前だった時代と、実力主義の今のものとでは中身もメッセージもおのずと変わってきています。
社内報制作に事例を求めてはいけない時代
それは、社内報制作に事例を求めてはいけないということです。参考程度なら構いませんが、事例になぞって作る社内報などは最早意味がないのではないでしょうか? 各社が各社の存在理由を銘打ち、その証明のために企業活動をしている今、護送船団ではなくそれぞれの道筋に船先を向けている今、作りたい物=発行目的を定め、そのためのオリジナルを模索してく時代になっているのです。
この記事を書いた人
(NCL)高橋健
株式会社コミュニケーションズ・イン 代表取締役。雑誌編集、書籍編集から社内報編集者に転身し18年社内報を作り続ける。「読まれない社内報はゴミを刷ってるのと同じ!」という過激なポリシーのもの、徹底した読者目線重視の社内報制作を提案・実践し、一部の企業社内報担当からは面白がられ、一部の企業社内報担当からは煙たがられる。社内コミュニケーション改善にも乗り出し、研修、SNS戦略提案と運用にも乗り出している。「役に立とうとしている会社と人の役に立ちたい!」がモットー。